孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 ちゃぽん、とまた耳元の近くで波の音がした。

 寄せる波の光景が目に浮かび、それを実際に目にしたくてカーテンを開けた。

 遮光カーテンでは気づかなかった夜の空は、丸い月が辺りを明るく照らしていた。

 その足元へ視線を下ろすと、水面に落ちる月の光がゆらゆらと揺れていてとても綺麗だ。

 すると、波止場の際に黒い人影を見つけた。

 まさか……と思ったと同時に耳元に尋ねていた。


「社長、今どちらに?」


 私の声に呼応して、その人影が自宅の二階にいる私のほうへと振り向いてきた。


『ああ、海のそば』


 どきんと鳴る心臓の音が、自分の中に響いて聞こえた。

 暗くて顔は見えないけれど、月影のシルエットでこちらを見上げているのが橘社長だとわかった。


「なにやってるんですか、こんなに寒いのに」

『んー……海が見たくて?』


 返された疑問形がやっぱり可愛らしくて、胸がこちょこちょとくすぐられる。

 「ちょっと待っててください」と電話を切り、部屋着のまま厚手のストールだけを羽織って部屋を出た。



.
< 166 / 337 >

この作品をシェア

pagetop