冷徹社長の容赦ないご愛執
「髪、意外と長いんだな」

「え? ああ、そうですね。いつもまとめてますからね」

「しかも素っぴん」

「あ、あんまり見ないでくださいっ」


 思わず部屋から飛び出て来たものだから、すっかりそのことを忘れていた。

 急に恥ずかしさに襲われて、肩からくるまっていたストールで口元を隠す。


「こっちのほうがいいな」

「え……っ⁉」


 おもむろに、肩にかかる髪を一束、長い指がさらりとはらう。

 頬に近づいた社長の指の熱が、冷えた空気と私の心臓を、瞬間的に温める。

 私に触れた社長に不意をつかれ、心臓が脈を乱した。


「若く見える」

「わ、若いんですよっ、まだ!」


 アラサーにしてみれば誉め言葉のようだけど、なんだかからかわれたような気がして、照れ隠しに返した言葉は、少し強くなってしまった。
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