冷徹社長の容赦ないご愛執
 声を荒げた私を不快に思うことなく、社長は切れ長の目をふっと細めて、口の端を上げる。

 やっぱりいつもと違う社長のやわらかな雰囲気に、ときめきが増してしまった。


「ひとりで飲んでいてもつまらなくてな」


 月明かりに陰る表情に少し寂しさを感じる。


「どうしたんですか、なんだか社長らしくないです」


 私をじっと見下ろしてくる瞳が、ゆらりとかすかな揺らぎを見せた。

 冗談のつもりだったのに、本当にホームシックにでもなっているのかと首をかしげる。

 社長のような完全無欠のような人でも、そうなることがあるんだと妙な可愛さを感じてしまった。

 社長が見つめていた海の向こうには、彼がこれまでの人生を過ごしてきた故郷がある。

 遠い国に家族を残したまま、ホテル暮らしをしている社長。

 日本人だとはいえ、社長にとってこの国は異国だ。

 海を見たいと言ったのも、故郷に思いを馳せていたからだったのかもしれない。
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