孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
少し照明を落とした広縁は、大きな窓から差し込む月の優しい光に満たされている。
置かれた楕円形のローテーブルの和室側に、沈み込むほどやわらかなソファがあり、外を眺めるようにして社長と座った。
バルコニーというよりちょっとした庭園のようになっている外は、石畳の周囲に植栽が並び、陰になったところに露天風呂が見える。
その一帯の背景には、月の光を水面に揺らす海が悠々と広がっていた。
「お疲れさま」
「お疲れさまです」
合わせるグラスの音が、軽やかに響く。
ほんの少しだけしか距離のない隣の社長が、グラスに口を付けた。
月明かりは魔性だ。
加えて、普段のスーツ姿とはかけ離れた浴衣姿に、私の目は否応なしに奪われる。
地ビールを口につけた社長の、切れ長の瞳が私を見返してきた。
「うん?」
「い、いえ……」
見ていたことがバレてしまった。
うっかり見惚れていましただなんて言えずに、グラスをあおってごまかした。
「いいところじゃないか、この町は。なにもないなんて謙遜しすぎだ」
「そう言っていただけて、安心しました」
謙遜どころか、謙遜するものすらないと思っていたのに、社長が褒めてくれるから、この田舎に生まれ育ってよかったと思う私は現金だ。
置かれた楕円形のローテーブルの和室側に、沈み込むほどやわらかなソファがあり、外を眺めるようにして社長と座った。
バルコニーというよりちょっとした庭園のようになっている外は、石畳の周囲に植栽が並び、陰になったところに露天風呂が見える。
その一帯の背景には、月の光を水面に揺らす海が悠々と広がっていた。
「お疲れさま」
「お疲れさまです」
合わせるグラスの音が、軽やかに響く。
ほんの少しだけしか距離のない隣の社長が、グラスに口を付けた。
月明かりは魔性だ。
加えて、普段のスーツ姿とはかけ離れた浴衣姿に、私の目は否応なしに奪われる。
地ビールを口につけた社長の、切れ長の瞳が私を見返してきた。
「うん?」
「い、いえ……」
見ていたことがバレてしまった。
うっかり見惚れていましただなんて言えずに、グラスをあおってごまかした。
「いいところじゃないか、この町は。なにもないなんて謙遜しすぎだ」
「そう言っていただけて、安心しました」
謙遜どころか、謙遜するものすらないと思っていたのに、社長が褒めてくれるから、この田舎に生まれ育ってよかったと思う私は現金だ。