孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
「こんないい町なのに、帰りづらかったのか」


 ほっとしたところで、また自然に隣に向けた視線は、社長に捕まる。

 遠慮なく心に触れてくる彼に、お酒の入った私もまた素直に心を打ち明けた。


「居場所が、ない気がしていたんです。紛れもなく自分が一方的に抱えていた気持ちのせいで。
 この旅館を背負っている妹に、劣等感を感じていたんでしょうね。しっかりと自分の居場所を確立した彼女と比べて、私は誰にでもできるような仕事しかしてなくて」


 不思議だ。

 どうしてこんなふうに、自分のことを社長に話すことができるのか。

 あんなに自分の中に押し込めていたのに。


「仕事にやりがいがないなら、帰ってくることもできたんです。みんな、今日みたいに笑顔で私を迎えてくれるってわかってたから。大和だって帰って来いって言ってくれたのに」


 叔父の店で踊りを続けることで、意固地になっていた。

 今の仕事を辞めて帰ることは、いつだってよかった。

 代わりなら、すぐに見つかるはずだから。


「私は、今いる場所で精一杯自分を活かして頑張ってるつもりでした。だけど、もし帰ると言ったとしても、私のことを引き止めてくれる人なんているのかなって思って……。 
 今の場所も、この故郷にも、私でなくてはいけない理由がないことが、焦燥感の原因だったのかもしれません」
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