孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 ずっと社長の秘書として仕えることができれば、私は自分の価値を確かめ続けられる。

 でも……


「社長はいつか、ご自身の故郷へ帰ってしまうんですよね……」


 今の会社が経営を立て直して、自力で動き出せるようになったあと、社長はまた米本社へ戻ることになるはずだ。

 それは来年かもしれない。二年後かもしれないし、五年後かもしれない。

 もしそうなったとき、私は社長の支えを頼ることなく、自力で立てるようになってなきゃいけないんだ。


「そうだな」


 そういってグラスに口を付ける社長の横顔。

 私から外された視線は遠く見える月夜の海へ向かう。

 遠く思いを馳せている社長の意識が、私から離れてしまったようで、なんだか少しだけ寂しく思った。


「だけど、向こうに“帰る”という感覚は、ないな」

「え……」

「正確には、帰りたいと思う場所がない、と言ったほうが正しい。
 君と同じだよ、佐織」
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