孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 遠い場所から舞い戻り私を見てくる切れ長の瞳に、胸が大きく脈を打つ。


「今の仕事にはやりがいを感じている。傾いた経営を立て直すのは、並大抵の手腕じゃ無理な話だからな。
 そんな大役を任されたんだ。こんなに自分を活かせる仕事はないさ」


 とても大きな責任と、そこにやりがいを見出している社長。

 そんな彼が見つめていた、遠く水平線の彼方には、なにがあったの……


「あちらにはご実家もおありなんですよね?」

「ああ、両親と、親の期待に応え続ける兄がいる」


 お兄さんのことを社長はなぜか、皮肉をつけて話してくれる。

 まるで自分はその反対だとでもいうように。


「きっと君ならわかってくれると思うけれど、俺も自分の生まれ育った家に自分のいる場所はない気がしてる。仲が悪いわけではないし、誰も俺に帰ってくるなとは言わないけどな」


 同じような感情を抱いている社長に、今までにないとてつもない親近感が湧く。

 遠くに思いを馳せていたのは、家族のことではなかったのかしら。
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