孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 グラスをテーブルに置いた社長は、白の浴衣の下で長い脚を悠然と組んで私に向いてくる。

 ソファの背もたれに置かれた腕が、私の背中に触れない距離に近づいた。

車に乗ったときと違うと感じるのは、社長は今仕事用の顔をしていないからだ。


「なあ佐織」


 だから、とても近く感じる社長との距離に、鼓動が大きな音をひとつ打った。


「俺の帰る場所にならないか?」


 月の光を込めた瞳が、私を真っ直ぐにとらえて離さない。

 体を固め目を見開く私の頬を、温かな指の背がふわりと撫でてきた。

 きゅんとするのは、触れられた部分から駆け抜ける疼きと、鼓動を高鳴らせる胸。


 ……社長の帰る場所、って……?


「東京に戻ったら、家探してくれるだろう?
 探す部屋は君の好みで構わないから、決まったら……一緒に来ないか」


 唐突に言われても、その意味がよく理解できない。

 頬を滑った社長の指が、また肩に落ちる私の髪をいじる。

 くるくると長い指に大人しく巻きつけられながら、ぱちぱちとまばたきをした。


「わけがわからないって顔してるな」


 口の端でやわらかく笑う社長に、胸がきゅんとときめいた。
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