孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 社長がなにを言おうとしているのかわからなくて、緊張で心臓がどくどくと激しい脈を打ちまくる。

 掬われた手の甲が温かな親指にやわやわと擦られ、心までもくすぐったくさせられる私に、社長は静かに告げた。


「好きなんだ、佐織。君のことが」


 すでに顔を真っ赤に染めているであろう私は、これでもかと目を見開き社長のやわらかな眼差しを受ける。

 二十九年間生きてきて、こんなに真っ直ぐな告白を受けたのは初めてのことで、頭が真っ白になる。


「こんなに突然言われても、戸惑うだろうな。俺は君の上司なんだから」


 くすりと小さく笑う社長は、私の反応を予測していたかのように言う。


「実は俺も少し戸惑ってる。自分の気持ちに気づいたのはついさっきのことだからな」


 どうして……


 まばたきも忘れてただただ目の前でやわらかな雰囲気だけを醸す社長を見つめる。

 社長が言った言葉の意味をなかなか上手くのみ込めなくて、機械仕掛けのようにことりと首をかしげた。
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