孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 解放された私は落としたバッグを拾い、ふらつく足を引きずるようにして、洗面所になだれ込む。

 後ろ手にドアを閉めるなりそこに背中を預けて、ゆで上がる顔を手のひらで覆った。

 昨日までの人とはまるで違うように感じるのは、告白をされたからなのだろうか。

 いつか、恋人でもない女性を簡単に抱きしめたりしない紳士なのだと、感心していたような気がするけれど。


 ――『容赦なくいくから』

 ――『俺に惚れて』


 私を振り向かせたくて、あんなふうに抱き寄せたり、やさしく触れてきたりするんだろうか。

 惚れるもなにも、今までに経験したことのない男性との触れ合いに、戸惑いのほうが先立っているのに。

 私の心臓はいちいち過剰に反応してしまって、この先もこんなことを続けられてしまっては、身が持ちそうにない。

 どう対応すればいいのかわからないままだけれど、とりあえずは早々に着替えてここを出なければ、どんなお仕置きをされるかわからない。

 まずは目の前のことをひとつひとつ乗りこなそう。

 社長のことを好きになるかどうかは、まだ考えられない。

 だけど、諦めてほしいと思わなかった私は、社長の気持ちに前向きに応えようとしているのかもしれなかった。



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