孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
*


 一階の大広間に用意されていた朝食を社長とともにとる間。他のお客様がいるのは当然のことだったけれど、顔見知りの従業員さんたちの目が気になって仕方がなかった。

 実家ではなく、ここに泊まった私に向けられる彼らの顔が、すべて詩織の表情と同じように見えて、せっかくの和定食も、ゆっくり味わえないまま終えてしまった。


「またお越しいただけることを心よりお待ちしております」


 正面玄関まで見送りに来てくれる詩織は、朝一で見せたニヤけた表情を微塵も醸さない女将の着物姿で、品よく私たちに頭を下げた。

 その隣に立つ大和もまた、詩織に小突かれながら「またいつでもお越しください」と腰を折っていた。


「ええ、ぜひまた」


 昨日支配人としてはあるまじきふてぶてしい態度を取った大和。

 その彼に嫉妬し、私を独り占めしたかったと言っていたあの言葉を少しも思わせず、嫌な顔ひとつ見せなかった大人な社長に、向ける私の視線は昨日までとは少し違う気がした。

 
「今度のお正月は帰るから」

「うん、待ってる。……今度は社長さんと一緒にね?」


 タクシーの運転手に荷物を任せる社長には聞こえないよう、耳打ちしてきた詩織に赤くなる顔はごまかせなかった。

 
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