孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 考えてみれば、社長は向こうから十四時間かかるフライトをしてきたばかりで、空港から直で出社してきた。

 どんな仕事人間の社長でも、時差と長時間の空の旅で、疲れが出ないわけがない。


『お寿司、お好きなんですね』

『ああ、日本に来たときは一番に食べると決めてる』


 初めて、この冷徹社長が生身の人間なのだと思わされた。

 事務的な話しかしたことがなかったから、まさか彼の好物を知ることになるとは思いもしなかった。


『それで、あるか? いい店。帰りに寄りたい』

『近くにございます。私の行きつけでよければ』

『構わない。予約はいるか?』

『大丈夫だとは思いますけれど、一応連絡してみます』


 仕事を抜いてしまえば、彼も普通の人だったようだ。

 それまであった堅苦しい空気が嘘のように、社長と話ができている。

 
「Number is……?」
〈番号は?〉


 シルバーの細長いフォルムをした電話機から受話器を取り上げる社長。

 重厚な机に置かれていた電話を使わせようとする社長の気さくさに、焦って大きくかぶりを振った。
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