孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 視界が重くなり、脳裏に浮かぶ社長の私を見つめてくれる表情がおぼろげになる。

 私を必要としてくれていた彼の本当の心が見えなくなった気がして、足元がぐらつく。

 あんなに熱くなった心が、今は凍えるように震え、隅っこのほうで小さく生まれ始めていた気持ちが膨らむのをやめる。

 それがとても寂しくて、目の奥からひりひりとした感情が滲み出てきた。


『ああ、サオリ。不毛な未来に身を投じる君が可哀そうでしかたないよ』


 自分の心をかばうようにうつむいた私に、ルイさんが腕を回してくる。


『僕なら、サオリのこと大切にしてあげられるよ?』


 背中を抱き込まれ、あの人とはまったく違う匂いに包まれそうになったところで、体がびくっと拒否反応を起こした。


『やめてください……っ』


 狭いブースの中で、精一杯に目の前の人から距離を取る。

 怯えながら持っていたバッグを抱きしめ、自分があの人以外に触れられることも、心を預けることも許していないのだと気づいた。
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