孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 私は私にできる最善のことで、社長を支えていくべき立場にある。


 ――『俺の帰る場所にならないか』

 ――『好きなんだ、佐織。君のことが』


 思い出した社長のやわらかな眼差しと、深みのある声音。

 私の心にだいぶ深く入り込んできている彼に、思い出すだけで胸は当たり前にきゅんとした音を立てる。

 社長が私を必要としてくれるなら、ちゃんとそばにいてあげることが私の役割だ。

 それがたとえ、日本にいる間だけの短い期間だったとしても。

 ひとりで不安に揺れている場合じゃない。

 社長秘書として任命を受けたときから、私の中に備わっていた忠誠心。

 それをしっかりと自分の中に立てると、心の隅っこで生まれてきていた小さな想いはその陰にひっそりと隠れてしまった。



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