孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
*


「お疲れさまです」

「ああ、ありがとう」


 昼前から続いていた米本社への報告が終わったのは、少し日が傾き始めたころだった。

 熱いコーヒーを頼まれ持ってきた社長室。

 ふたり分を用意したけれど、ルイさんの姿はここにはなく、長い指でこめかみを抱えた社長は椅子の背もたれにしなだれかかるように脱力していた。

 ルイさんが言っていたトラブルが社長を疲弊させているに違いない。

 事情を知らない私には、こうやってコーヒーを出すことしかできない。

 でも喉を潤す社長が、ほっと息を吐くように私を見てくれたことは、彼にとっての癒しになっているとわかり、ここに居るだけでも十分意味のあることなんだと、かすかに沁みる胸に自負心を湧かせる。


「佐織、こっち来て」


 なにか業務に関することを指示するのか、頼られることに気分を上げる私は、PCを操作する彼が座るほうへと呼びこまれる。


「はい」


 革張りの椅子のそばに立つと、さっきまでテレビ通話をしていたPCの画面は暗転した。
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