孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 くるりと椅子を回し、PCではなく私のほうを向き直ってくる社長は、どうしたのかと首をかしげる私の手をぐっと引っ張った。

 かくんと体勢を崩して私が倒れ込んだのは、革張りの椅子。

 崩れる体勢を守ろうとする本能で、かろうじてついた片膝は、悠然と座る社長の長い脚の間だ。


「す、すみません、あの……っ」

「謝ることはない。いい眺めだ」

「え……っ!?」


 完全に崩れ落ちることは免れた私を、社長はにやりとして見上げてくる。

 社長をこんなに近くで見下ろす視界の高さに、ばくばくと心臓がパニックで暴れ回る。

 たくましい肩についてしまった手がとんでもなく失礼なことをしているようで、慌ててそこから退こうとする。

 だけど逃げようとする私の腰を、社長はがっちりと抱き込んだ。

 もう片方の手のひらが舞い上がってきて、私の熱くなった頬に滑り込んでくる。


「逃げるな」


 私の意思を操作するような低く深みのある声が、体の動きを封じる。

 後頭部を引き寄せられ、下に見る社長の唇が、落ちる私を受け止めた。
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