孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 やわらかな唇が、隙間なく私の口を塞ぐ。

 伏せられた睫の長さに胸がくすぐられると、一切の抵抗をしない私の唇の中へ社長がするりと滑り込んできた。

 絡み取られる舌に酸素を奪われる。

 私を激しく求めてくる社長の熱に、心臓はドキドキと大きく肥大しながら鼓動を繰り返す。

 時折わずかにできるふたりの隙間に、ふたつの呼吸が入り乱れる。

 抱かれた腰をやわやわと擦られるこそばゆい感覚に身をよじり、たくましい肩に置いていた手で社長の頭を抱え込んだ。

 私がこうやって社長を癒してあげられるのなら、私の存在は十分な意義を持っている。

 それなのに……


 ――『向こうには彼を待っている子がいるからね』


 ルイさんの言葉が、心の隅っこに隠れている気持ちをチクチクと突いてくる。

 そこから出てこないようにと押し込める気持ちは、本当は社長に秘書としてではない私を、……私だけを、求めてほしいと息苦しく喘いでいる。
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