孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
*


 はあ、と大きくため息を吐きだしたのは何度目だろう。

 自宅に帰り、今日もバラの香りに満たされながら湯船に浸かるも、リラックスするどころか、ため息のたびに息苦しさは増すばかりだった。

 たくましい肩に触れた感触が、まだ温かく手のひらに残っている。

 抱きしめた彼の爽やかな香りは、ローズウォーターの湯船の中にいてもはっきりと思い出せる。

 細めた瞳で私を見上げながら、唇を掬った彼の熱量が胸を圧迫し、また大きなため息に変えて吐き出した。


 恋って、こんな感じだったっけ……


 彼のことが好きだと気づいてしまってから、呼吸が苦しくて仕方ない。

 彼のことを思い出すだけで、胸がきゅうっと締めつけられる。

 リビングのソファに腰かけ、夕食を食べていなかったことに気づいたけれどまったく食欲はない。

 息苦しくてだるい体をころんとソファに横たえた。
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