孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 すると突然、消えたはずの画面がぱっと点灯する。

 振動とともにコール音を鳴らしたのは、【橘社長】の文字だ。

 どきっと心臓が飛び跳ねると同時に体を起こす。

 たった今まで思い浮かべていた人からの着信に、画面を押す指は震えた。


「は、はい、鹿島です……っ」

『ああ、すまないな夜分に』


 せめて声は震わせないように出ると、落ち着いた深みのある声が電話の向こうから聞こえた。

 不安に急き立てられていた胸は、その声の包容力に安堵し、きゅんと音を立てる。

 なんの用があって電話をかけてきてくれたのかわからないのに、不安がる私を安心させてくれるようなタイミングに、勝手に心が熱くなる。


「社長……」


 社長への想いがあふれ出しそうになり、思わずすがるような声を出してしまった。


『佐織?』


 呼び返された声が心配そうで、はっと姿勢を正して見えもしないのに手のひらを仰いだ。
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