孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
「……佐織のことが」


 付け加えるように言うと、私を抱き寄せる社長は、簡単に唇を奪ってきた。

 食んだ唇から音を立てて離れると、一度視線を合わせてからまたやわらかく口づけられた。

 胸が苦しい……

 こうやって触れられることも、好きって言ってくれることも……

 もしかしたら、今だけなのかもしれないと思うと、息もできなくなるくらい胸が押し潰されそう。

 社長のことが好きだって気づいてしまったから、余計に。


「佐織?」


 ほんのいっときの間だけしかこの幸せな気持ちを味わえないのならと、社長をこの目に焼き付けるように見つめる。


「社長、私……」

「うん?」


 トラブルに見舞われて疲れているはずなのに、こうやって私のところに来てくれるくらい、社長は今私を必要としてくれている。

 私にはその事実があるだけで十分だ。


「引越しの準備、始めようと思います。私も社長の新しいお家、一緒に行ってもいいですか?」
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