孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
「佐織……悪かった」


 どうして謝るの……

 私へ伝えてくれた想いは、本物ではなかったから?

 喉の奥が締めつけられて苦しい。

 苦しくて、目尻からぽろりと涙がひとつこぼれ落ちた。


「泣かせるつもりはなかった」


 ぎゅっと抱きしめられて、温かな腕の中で痛む心が包まれる。

 だけど社長の絶大な包容力でも追いつけないほど、胸の痛みは増すばかりだ。


「魔が差した、すまない。傷つけたかったわけじゃないんだ」


 拒絶を思わせないよう、社長は膝の上から私をそっと隣に降ろす。

 一瞬でも私から手を離さないよう触れたまま、ソファに座った私の頬を大きな両手で包み込んでくれた。


「向こうに待たせているのは“人”じゃない」


 謝罪をした瞳は真摯な眼差しを崩すことなく、私の心を癒すようにやさしく語りだす。


「犬を飼っていた。五歳のラブラドールだ。今は知人の家に預かってもらってる」
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