孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 五歳……ラブラドール?


 切れ長の瞳の真っ直ぐな眼差しに羽交い絞めにされたまま、社長が言った言葉を頭の中に並べる。

 ショックを受けていた思考は、すぐにはそれを理解できずに、きょとんと目の前の人をただただ見つめた。


「こっちに連れてくるには、検査があって半年間待たなければ入国できないんだ」

「えっと、あの……わんちゃん、ですか?」


 やっと理解できた部分だけの正解を求めると、社長は目を細めてやんわりとまばたいた。


「ああ、とても賢い子なんだ。早く彼女を君に会わせたい」

「向こうの国で、待っている方は……五歳の女の子?」

「そうだよ。だから、君が泣いてしまうようなことはなにもないんだ」


 待っている子、とルイさんの言っていたことは、確かに本当だった。

 だけど、社長が言うように、なにも私が胸を痛めるようなことも泣くようなことも、その事実にはなかった。

 やっとほっと安心して、痛んだ胸に蓄積されていた涙がぽろぽろと頬を伝って流れ出る。
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