孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 いつもの社長のどれとも違う瞳の色に、心臓がどくどくと緊張の脈を打つ。

 私に触れる手つきがいつもと違うとわかるのは、経験はなくとも、私がもう大人の女だということを、本能が知らせてくれたからだ。


「あっ、あのっ、お茶が冷めちゃいます……っ」


 自分の中にそういう部分があることが恥ずかしくて、逃げるように横目に入ったカップの存在に助けを求めた。

 すると社長は、ぎらつく目をそっと閉じて、薄い息を吐きだした。


「それもそうだな」


 切れ長の瞳は私に戻ってくることなく、体勢を起こす社長。

 ソファに置き去りにされたまま、座り直した彼の私を見ない横顔に胸がきゅうっと切なくなった。

 怖さからは解放されてほっとしたのに、もっと触れていてほしかったなんて、今までにない自分のわがままな矛盾に戸惑う。

 ゆっくりと体と起こして、小さく「すみません」と呟いた。
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