孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 今日は社長のいない会社で、急な出張になってしまったスケジュールの調整に追われていた。

 一日中どこを探しても彼の気配を感じられなくて、癒せなかった心が疲弊している。

 着替えもしないままソファに倒れ込み、閉じた瞼の裏に彼の姿を思い浮かべた。

 すらっとした長身に、いつだって少しのよれもないオーダーメイドのスーツを纏う。

 うっかりするとすぐに目を奪われてしまって、そんな私を見抜く彼は、切れ長の瞳を意地悪に細めてほくそ笑むんだ。


「……勇征、さん……」


 あまりに想いが過ぎて、ついここにいない彼の名前を口にしてしまった。

 それがいけなかった。

 返事のない部屋に自分の声は受け取ってもらえず、ただ虚しく転がったことが、切なさに追い打ちをかけてしまった。

 まだあと数日、彼に会えないのに……

 早くも寂しさがピークに達してしまって、顔を埋めたクッションに滲んだ涙を押しつけた。




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