孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 しょぼくれてばかりはいられないと、年末に立て込む業務をあちこちから引き受け、仕事に没頭する。

 そうでもしないと、主のいない社長室の扉から漂う悲壮感に取り込まれてしまいそうだった。

 同僚とランチを共にし束の間の休息を過ごす。

 同僚に私の張り切りようを見て、あの冷徹社長のおっかない目がないから伸び伸びと過ごしているんだろうと笑われた。

 いない人のことを考えないようにと意識して過ごしていたから、またメッセージの確認が遅くなってしまった。

 慌ただしくしていた業務が終わり、帰宅しようとエレベーターを待っている間にようやくスマホを確かめたところだった。


【次の日曜に鍵の受け渡しができるそうだ。その日までにはなんとか帰るようにする】


 メッセージが来ていたのは、私が返事を返したすぐの時間。

 きっと忙しいに違いないのに、いつだって構わないような連絡をくれた彼への愛おしさがあふれる。

 振り返って見た最奥の社長室に、今も彼がいるような気がするのは、私の欲張りなただの願望だ。
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