孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない



 定時を迎えて、退社する社長の見送りのため、すっかり夜に落ちた社屋の前に出る。

 けれど彼は、ロータリーに待機していたハイヤーを回り込み、振り返って闇の空の下で悠然とたたずむ自社を見上げた。


『ここはいつもこんなに残業が多いのか』


 黒のロングコートに両手を突っ込み、街灯の明かりに白い息を溶かす社長の立ち姿も、……かなり絵になる。

 顎をあおったことで、高い鼻筋を携えた横顔の輪郭が明かりに浮かび、ただでさえ美しい容姿をさらに幻想的に見せている。

 あとについて不用意に近づいてしまって、芸術作品のような美しい人に、心拍を急かされた。


『そうですね、各部門の営業部なんかは特に、お客様の都合でこれから交渉に向かう者もいるかと』

『それにしては、明かりの点いた部屋が多い。
 残業はすればするほど、作業効率が落ちる。電気代も馬鹿にならないはずだ。
 業務時間内に終えられないのなら、仕事の分量が見合っていないか、怠慢かのどちらかだろう』


 そのあたりも見直す必要がありそうだな、と白い息を零しながら、社長は低く呟いた。
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