孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 こんなに会社のことを考え、的確な対処を導く上役がこれまでにいただろうか。

 頭の回転も早くて、なおかつ、それに伴う行動力と統率力を兼ね備えたまだ三十代半ばの青年。

 “社長”という肩書きに恥じない尊厳をその手に持っている人は、脱力したように大きくため息を吐いた。


『いい加減腹減った。行くぞ』


 崇高な雰囲気を途端に解いた社長は、やっぱり身近な人間のように力なく私を見やった。


『はい、あのお店の場所は、先ほどメールでお送りさせていただきましたので、お気をつけて……』


 うっかり見惚れてしまっていた頭にピシッと鞭を入れ、姿勢を正す。

 お寿司が好きらしい社長に、ぜひとも叔父の店を贔屓にしてもらえますようにとの念を込めてお見送りをしようと頭を下げると、


『なにしてる、お前も行くんだ』


コツコツと革靴を鳴らして歩み寄ってくる社長は、エスコートでもするように、私の背後に腕を回した。
< 43 / 337 >

この作品をシェア

pagetop