孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
「Wondarful……」
<素晴らしい……>


 私を先導するように歩きながら思わず呟いた社長は、どうやらこの雰囲気をお気に召してくれたらしい。

 こういう日本文化に触れ感心を抱くのは、同種族の彼が異国で生きてきたんだと思わされる瞬間だ。

 レディファーストが完璧な異国育ちの社長は、檜の扉を開き、やっぱり私を先に通してくれた。


「いらっしゃいませ!」


 相変わらず檜のいい香りがする店内で、数名の男声が景気よく声を上げる。

 暖簾と同じ藍の作務衣を着た顔馴染みの板前さん達が、檜のカウンターの向こうから私に気づいてくれた。

 「こんばんは」と会釈して入店すると、カウンター内からいつもの渋みのある笑顔で叔父が顔を上げた。


「おう、佐織。いらっしゃい」

「こんばんは、叔父さん」


 ロマンスグレーの短髪を後ろに流した叔父は、私の後ろから入ってくる彼に目を向け、ほうと感心してからにやりと笑んだ。
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