孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 コハダや鯛から始まったお寿司のフルコースは、カウンターの段になったところにある黒漆しの四角いお盆に一貫一貫置かれていく。

 店内の眩しすぎない照明の下、鮮度が光度で表せそうなほど艶々なネタを、じっくりと味わう社長。

 いつも私が食べさせてもらう“並”の一盛とは、格段に質が違うことは一目瞭然だった。

 特に途中に出されたイカの握りは、おそらく舌が肥えているであろう社長を唸らせた。


「イカって透明なんですね。初めて見ました」


 今まで水の中で泳いでいたイカを捌いたすぐは、ご飯の上のワサビが透けて見えるほどの透明度だ。


「もう三十分もすれば白く白濁してくるので、この透明感は今この瞬間しか見られないんですよ」


 叔父はまるで我が子のように目を細めて自慢すると、イカを頬張るなり「甘い!」とまんまと舌を巻いた社長に、似合わないウインクをして小声で囁いた。


「姪が世話になってる社長さんには、特別メニューです。普段はこうやって出さないんです」

「そうなんですね、ありがとうございます」


 叔父のお寿司に満足そうな表情の社長にほっとしつつ、私も前に置かれたイカの握りに箸を伸ばした。
< 61 / 337 >

この作品をシェア

pagetop