孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
「イカの活き作りをお出しして、ちょっとした日舞の演目をやるんですがね。これがまた好評で……」

「叔父さんってば……!」


 美味しいお寿司の味も忘れるほどの叔父の話に、思わず強めの声を上げると、隣の社長だけでなく、他のお客さんの目までも集めてしまった。

 すみません、と周囲に頭を下げ肩をすくめる私が、なぜこんなふうにうろたえなければいけないかなんて知りもしない社長は、「ニチブ、ですか?」と叔父の話に興味津々に耳を傾けた。


「日本舞踊、ご覧になったことはありますか?」

「いえ、なかなかそういう機会に恵まれないものですから」

「それなら、ちょうどいい。ぜひいらしてください」


 あああっ、と頭を抱えて悲観する私の横で、社長は見事に叔父に囲い込まれてしまった。


「うちの姪が、日本の伝統芸能をお見せいたしますので」

「え?」


 にっこりと白い歯を見せて笑顔を向ける叔父のほうから、私へと移ってくる視線。

 逃れることなんてできないそれから、せめてあと少しだけでも私のOLとしてのあってないような沽券を守れないかと顔を逸らした。


「君が踊るのか」


 逃げ出そうとする私の肩をわしっと掴むような社長の言葉に諦めをつけ、羞恥の涙を浮かべて小さく頷いた。
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