孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 ――『佐織』……


 闇夜の中、私を呼んだ声が幻想に舞う。

 なにも他意があったわけじゃないってわかっているのに、消えそうなその声の残響を惜しんでしまう。


 女の子になら誰にでも……


 黒の重厚なエグゼクティブデスクにつく肩書に恥じない存在感。

 昨日ほんの少し近さを感じた距離が、大きな机に阻まれてしまった気がする。


『このあとは、インテリア部門の営業部部長と面談予定になっております』

『ああ、そうか』


 自分の中に沈んでいくなにかを振り払うように、毅然と姿勢を正し、きびきびとした英語で今後の予定を伝える。

 対する社長は、ため息を吐きながらうなずき、そこに少し疲れの表情を垣間見た。
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