孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
『休憩時間を置かれますか』

『そうだな、少し頭を休めたい』

『コーヒーをお持ちしますね』

『ああ、頼むよ』


 私は秘書だ。

 社長をサポートする立場にある人間だ。

 この絶対実力主義の君主の威圧感に怖さを感じていたけれど、自分のステータスを上げられるチャンスだったことに違いはない。


 秘書課横にある急騰室で来客用の上等なコーヒーを淹れて、社長にお出しする。

 長い指でカップを持ち上げ、湯気の立つそれを口に運ぶ姿も様になる人は、こくりと喉を動かすと、ほ、と息を吐いた。

 こうした小さな労いも秘書の仕事だと自負する私は、コーヒーの香ばしい薫りにリラックスする社長にもう少し肩の力を抜いてもらいたくて、思っていた疑問をぶつけた。


「Which is easier,English or Japanese?」
<社長は、英語と日本語、どちらが楽ですか?>


 白いカップを机上のソーサーにかちゃりと置く社長は、長い脚を組み背をもたれた革張りの椅子をゆらりと揺らす。

 ゆったりと瞬いて気を抜いた切れ長の瞳が横目に私を見てきた。
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