孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 やっぱりなにもかもを統べるような眼光に、心臓は脈を乱す。


『なぜだ?』

『昨日と今日で、社長はずいぶんと気を回していらっしゃるので、少しだけでも気分を落ち着かせるなら、せめて使う言語くらいは楽な方がいいのではと思いまして』


 社長は日本語が話せる。それでも今交わす会話は英語だ。

 私がカモフラージュとして訳していても、理解できる日本語の話を英語で返すのは、いくら聡明な社長でも多少頭の混乱はあるだろう。

 ただでさえ頭を抱えなければならないこの会社の現状があり、言語の違いはさらに精神的な疲れを通常よりも増しているかもしれなかった。

 社長は一度瞬き、労る私をじっと見据えてくる。

 あまりに図々しい質問だっただろうか。

 そんなこと聞かなくても、日本語がわからないふりをしているくらいだから、英語で話すほうが楽に決まっているかもしれなかったのに。

 心臓を射抜いてくる眼力に、労りの心は怖じ気づいた。
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