孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 ごもっともな理由を英語で返され、言葉を見つけられなくなる。


「それと」


 さらに付け加えようとする橘社長は、真っ直ぐな瞳にすっかり馴染んだ日本語を乗せた。


「君が、ただの翻訳機械じゃないからだ」

「は、い……?」


 唐突に私を理由に挙げられて、きょとんと瞬いてしまう。

 納得するもなにも、まったく理解できない理由に固まると、社長は切れ長の目をさらに細めてみせた。


「あれは巧かったぞ。
 “racoon dog”を猟犬だとは、なかなか咄嗟に出てくるものじゃない」


 昨日社長が、浅田室長に向けて言い放った無遠慮な言葉を、慌てて言い換えたとき。

 必死にフォローしていた私を、日本語を理解していた社長が笑ったことを思い出した。

 あの必死さを見られていたのだと思うと途端に恥ずかしくなり、上目遣いに見つめられる顔が、かっと熱くなった。

 そして、顔だけでなく、体の中心から熱を沸き立たせるようなことを、社長はさらりと口にする。


「俺は前々から、君に一目置いていた」
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