孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 どくん、と大袈裟に鳴る胸の鼓動に、目眩がしそうになった。

 こんなに真っ直ぐな瞳に熱心に見つめられて、平静でいられる女子なんているんだろうか。

 しかも、まるで私のことをずっと見てくれていたかのような眼差しに、心が熱く火照りだす。


「俺が最初に戦略室長として立ち会ったウェブ会議。
 あのとき俺が言った言葉を、君自身が選んで、必要な分だけを丁寧に言い換えていたことをよく覚えている」


 ――『ちょっとは勉強してから来い』


 あのときのことだ。

 いくら通訳の立場とはいえ、直属の上司達に向かって、当時戦略室長だった社長が、無遠慮に放っていた辛辣な言葉の数々を、口が裂けても言えるわけなかっただけだ。


「君はそういった判断力に長けているように思った。
 もちろん、通訳は対話者同士を繋ぐ大切なコミュニケーションツールで、喧嘩をさせてしまうような人間性では務まらない仕事だ」


 通訳に限らず、周りの空気を読むということは、社会人としてできて当然のことではないんだろうか。

 ううん……この社長は、それの質とは違うことを、私はよく知っている。
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