孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 ひやひやさせられていたのはいつも私のほうで、社長は思っていることをずけずけと無遠慮に口にするような人だ。

 でもそこには、誰も文句の言えないようなきちんとした理屈を孕んでいるのを、この数日でだんだんとわかってきた。


「日本の縦社会で暮らしている人間と話すと、本当に疲れる。
 おべっか、建前、媚び、お世辞。
 ……他にどんな日本語があったか」


 昨夜、叔父の前で見せたあの貴公子のような姿は、完全な猫かぶりだった。

 レディファーストは完璧にこなしてみせても、ああいうのは疲れてしまうらしい。


「利益を求めるための業務のはずが、そういう心情に阻まれると、途端に前に進みにくくなるんだよ」


 そういうことをし続けるのが、この人にとってはストレスになる。

 ただひたすら、会社のために有益なものだけを選んでいきたいんだ。

 だから、相手の顔色をうかがうことを必要とせず、ただ業務的な会話だけをするために――……


「そこで適役なのが、……佐織、君だよ」
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