孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 そんな仕事一徹冷徹人間の社長は、時々こうやって、すべてを統べるような瞳で私を射貫き、いたずらに胸をくすぐったりする。


 ……やだ、耳が熱い。


 私の名前を口ずさむ社長の深みのある声に、もう一度呼んでもらいたいと思っていたんだと、今気づかされてしまった。

 
「君は賢い。そして、柔軟でとても機転が利く。
 だから、俺は君を秘書に指名した」


 まるで、私が必要だという口説き文句でも言われているような錯覚に陥りそうになる。

 そして、叔父に言われた通り、今まで“翻訳機械”として影に立っているだけだった私の足元に、明るいライトを当てられた気がした。


 自信あふれる深さを持った声に、鼓膜同様に胸までも激しく震えさせられる。

 社長がそう言うから、自分が本当に賢くて機転の利くお利口な子なんだと思わせられてしまう。

 激しく震え熱くなる胸元から、感情が湧き上がる。

 私の存在価値を認めてくれていた人がいたんだと感激する心が、目下の端整なお顔をぼんやりとにじませた。
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