孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 鼻の奥にツンと沁みるものを感じた途端に、社長は椅子を回してすっくと立ち上がった。

 大きな窓ガラスに歩み寄った広い背中の向こうに、果てしない青い空と外の世界が広がる。


「君にはそれだけ負担をかけていることは承知だ。
 でもそれが君の仕事。俺のパートナーとしての役割だ」


 社長はなにも、横柄に私を小間使いすると言っているわけじゃない。


「そして、君だからできることだ」

「はい」


 私自身を見てくれていて、そして、認めてくれているとわかる。


「二十分後に、インテリア部門のミーティングルームで面談を始める。
 インテリア部に伝えてくれ。
 それまでは、君も休憩を取るといい」


 告げられた業務事項にはっとして、ぱちぱちと瞬く。

 思わず涙をこぼしそうになったことに気づいて、うつ向くけれど、私に背を向けている社長からは見えるわけがなかった。

 もしかしたら、私の顔を見ないようにするために立ち上がったのかもしれないと、ほんのちょっとだけうぬぼれを湧かせる。


「明日は、楽しみにしている。
 伊達に外国にかぶれてるだけじゃない君の、日本舞踊」


 私を見てくれるという特別感が勘違いなのかもしれなくても、ふんわりと心を浮かれさせた気がした。




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