孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
*


 叔父の店の二階は、短い廊下の左手に宴会場が備わっている。

 そこを通り過ぎた奥にある六畳の和室が、私がいつも使っている控室だ。

 ここまで当然のように衣装を入れたスーツケースを運んでくれた社長。

 「楽しみにしてる」と切れ長の目を細めた彼は、今ごろほかのお客様達に混じり宴会場の席についているはずだ。


 畳に膝をつき、ドット柄の小ぶりな赤い箱を広げる。

 いつになく大きく鼓動を打っている胸に手を当てた。


 こんなに身近な知り合いに見せるのは、久しぶりだから……


 私を見る切れ長の瞳を思い出すと、手のひらに伝わる振動が強くなった気がした。

 ただの緊張だと思うのに、……少しだけ違う感じがするのは、気のせいかな。


 ――『俺は前々から、君に一目置いていた』


 社長に言われた言葉が胸を占める。
< 84 / 337 >

この作品をシェア

pagetop