孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 ひらりひらりと袂を揺らして、小さな舞台で舞い踊る。

 誰かに見られているのはとても恥ずかしいけれど、それを乗り越えたあとにいただける感嘆の拍手は、自分を認めてもらえたような気がして、心にぐっと自信が持てるのだ。

 普段の仕事では絶対にもらうことのできないもの。

 それを心の糧にして、私はこうやって踊りを続けている。


「ありがとうございました」


 三曲の演目を終えた後、舞台の真ん中でお辞儀をして感謝を述べると、宴会場から惜しみない拍手が届けられた。

 少し視線を遠くへやると、橘社長もまた他のお客様と同じように手を叩いてくれていた。


 きゅ、と苦しくなる胸を堪えて、舞台から下がる。

 そして、他の板前さんたちと一緒に、お客さまそれぞれの御膳に、熱燗を配り回った。
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