孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 一席一席順番にお酌をして回るのが、私の最後の役目だ。

 スーツのおじ様達は、私のような若輩の娘に注がれたお酒を飲むのがとても美味しいらしい。

 「ぜひ今後ともご贔屓に」と常套句をさし上げながら、次第に近づいていく最奥の席。

 圧倒的な橘社長の存在感を横目に入れつつ、体つきの大きなとある大企業の会長の前についた。


「今日は、お忙しい中ありがとうございました」

「今日もとっても素敵だったよ佐織ちゃん」


 気分よさげにお猪口を傾けた会長は、以前初めてこの見世物に足を運んでくれたお店の常連さんだ。

 ずいぶんと親しげに呼んでくれる会長に、お酌をしながら「ありがとうございます」と軽く微笑んでみせた。


「今日は、うちの息子を連れてきたんだ」

「は、初めまして」


 体も態度も大きな会長の隣の席では、大好物が多いのかなと思うふくよかな七三分けの男性が、ちょんと正座をして私のほうを向いてきた。
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