孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
「これも今年で四十なんだ。
 見合いをさせても、なかなかいい話に繋がらなくてね。

 ……この前大将にも写真渡してたんだけどね? どうかな、佐織ちゃん」


 どうかなと言われるこの流れは、当然お見合いの話だ。

 以前叔父に見せられたお見合い写真の人はこんな顔だったかなと、心の中で感情が引きつる。

 常連のお客さまだ。

 足蹴にするわけにはいかずに、本音を隠した曖昧な微笑みで会長の息子にもお酌する。

 着物の袖を押さえて徳利を御膳に戻すと、素早くお猪口をあおった息子。

 カチャンッと慌ただしく小さな陶器のそれを置き、突然、空いた私の手を分厚い生ぬるさで挟み取ってきた。


「さ、佐織さん……っ」


 気持ちと行動がいっぺんに前のめりになってくる会長の息子は、言葉をもつれさせながら私の手を握りしめる。

 ひぃっ、と隠し切れないおぞましさに鳥肌を立て、手を包み込む生ぬるさから身を反らせた。


 このお店はそういう場ではない。

 女の体を触りたいのなら、それ相応の許可をもらったお店に行ってもらいたい。
< 92 / 337 >

この作品をシェア

pagetop