孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
「あ、あいきゃんと、すぴーく、いんぐりっしゅ……そーりー、そーりー」


 それでは絶対に伝わらないであろう片言にもなりきれていない英語っぽい言葉を返す息子は、ぶんぶんとかぶりを振る。

 全編英語の話に、さっきとは違う恐ろしさを感じたのは私だけで、ふくよかな親子は、異国の言葉を話す“見た目は日本人”にたくさんのはてなマークを浮かべていた。


 遅れて出てきた板前さんが、会長親子にやんわりとした注意を促す。

 たぶん、この会長の息子は、出禁になってしまうだろう。

 叔父は利益より、格式の高さとお客様の質、そして私の居場所を守ってくれるはずだから。


 私は親子に三つ指をついてお辞儀をし、そそと橘社長の前へと移動する。

 鎮まりきれない胸の鼓動を抑えながら、「失礼いたします」と徳利を手にするものの、社長は私のお酌を断ってしまった。
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