孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
『このイカは本当に旨いな』

『あ、ありがとうございます』


 それ以上の酒の勧めを言わせないよう、イカの活き造りに箸をつける社長。

 いつもよりも少しだけ滑らかな英語がまったりしているようだ。


 社長でも酔うんだ……


 なんにでも臆しない社長は、当然お酒に対してもザルの印象を持っていたけど、どうやら偏見だったらしい。

 意外な一面にまたプラス1をカウントして、綺麗な箸使いを目で追った。


『踊り、上手いじゃないか』

『ありがとうございます。お恥ずかしい限りです』


 御膳を挟んだだけのとても近く向かい合った距離に、心臓が脈を速める。

 美しい箸使いをする日本人が、英語を話しながら和食を口にしている違和感は、頭を少し揺らめかせた。


『着物も、よく似合ってる』


 少しうつむき加減の長いまつげに気づくと、視線だけを私に向けた切れ長の瞳の上目遣いに捕らえられる。

 油断していた鼓動が大いに弾け、思わず顔がぼんと火を噴いた。
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