上司な彼とルームシェア
疑念──俊哉side

初出勤も無事に終え、疲れて部屋でまったりしているときに彼女は乗り込んできた。

何だか勘違いして食って掛かってきたが、昼間とは違うラフな格好の彼女が見れるのが少し嬉しくて、それに乗っかることにした。

昼間の話をしてる最中に、何故か顔をほんのり赤らめ黙った。すっぴんだからか、頬が綺麗なピンクになっている。それをからかいながら赤く染まった彼女の耳に何となく触れた時だった。

悲鳴と共に彼女は崩れ落ちた。
何が起こったのか理解出来なかった。

でも次の瞬間、叫ぶように言葉を放つ涙目の赤い彼女の顔に思考は飛ばされ、謝罪の言葉だけ吐き出した。


彼女が出ていった後、見慣れた天井を暫く眺めて自問自答していた。

あの一瞬感じたものが、あの感情なのか。
でも、これまで一目惚れなどした事の無い自分にたった数日でそんな事が起こるはずはない。

いつまでもモヤモヤは晴れず、「平常心だ、俺」と言い聞かせながら枕を抱いて眠った。


そうして、平常心を保ったまま休日を迎える予定だったのだが。
土曜の朝、少しの息苦しさに目を覚まし、吐き出す息に刺激を受けた喉の痛みに顔をしかめた。

暫く起き上がれずにいると、ドアの向こうから由紀恵の声が聞こえてきた。どうやら俺の分の朝飯も用意してくれたらしい。

何とか開けたドアから顔を覗かせ、喉の痛みに最低限の単語だけ吐き出し部屋を出ようとしたとき、思った以上に足が上がっていなかったようで小さな段差につまづき、由紀恵に寄りかかってしまった。

体を起こせず、そのままの状態で喋った俺も悪かったが、流石にこんな状況で鳩尾に食らわされたら相手が誰であろうと殺意を覚える。まぁ、その殺意のお陰かダイニングまで辿り着けたが。


パンだった朝食を急遽お粥に替えてくれたのは有り難かった。彼女の優しさがお腹に染み渡る感触がした。

だが、最後まで食べきれず、取り敢えず解熱剤を飲んで夕方まで眠りこけた。

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