常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「やあ、亜湖ちゃん」
水島課長が右手を上げた。
「あ、この間はごちそうさまでした」
亜湖は頭を下げた。ショットバーで奢ってもらったお礼だ。実は、水島がへべれけになったのでカードが出せず、マスターの杉山がツケにしてくれているのだが。
「あのときは、亜湖ちゃんにみっともないところを見せちゃったなー」
水島は気まずそうに頭を掻いた。
蓉子とうまくいったんだから、よかったじゃないの、と亜湖は口には出さずに心の中だけでつぶやいた。
「……大地、亜湖ちゃんをやっと見つけたみたいだね」
水島は、大地が去って行った方向を見て言った。
「僕も大地も、君のこと、すっごく探したんだよ」
「……どうして、ですか?」
亜湖は水島をまっすぐ見て尋ねた。
……あれ、この子、この間見たとき、こんなに色っぽかったっけ?
瞳がうるうると潤っていて、頬がほんのり赤くて天然のチークみたいだ。
そのくせ、くちびるだけはすっぴんのように、リップやグロスの輝きがなにもない。
事務職のブルーのスカーフがないな、と思ったら、クリアファイルと一緒に手にしていた。
ブラウスの襟元から見える首元に目をやると、赤い跡があった。
……大地のヤツめ、マーキングしやがったな。