常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

「……大地はうちのおかあさん、知ってるの?」

大地はものすごい勢いで、亜湖がつくった料理を食べていた。
証券マンの哀しき習慣で、食べるのが早いということもあるが、腹が空いている上に、なにより亜湖のつくったものが美味(うま)いのである。

「おまえがおれを知ってるより、たぶん、おまえの両親の方がおれを知ってるぞ」

大地は苦笑した。

「朝比奈の新年パーティで、ガキの頃のおれの腕白三昧を見てるからな」

我が国を代表する一流ホテルの広ーいパーティ会場で率先して、鬼ごっこはするわ、戦隊ごっこはするわで、周囲に大迷惑を撒き散らしていた。
その度に雷を落として叱りまくっていたのが「田中のおじさん」……つまり、亜湖の父親だ。

「……そうだ。亜湖、おまえ、どうして朝比奈のパーティに一回しか来なかったんだ?
親父さんもおふくろさんも、毎年来てただろ?」

「うーん、それが覚えてないの。バーで杉山さんに言われたんだけど、水島課長も蓉子もわたしのこと覚えてたのに、わたしだけ覚えてなくて。一回行ってたことをやっと思い出せたのは昨夜だもん」

そう言って、亜湖はサラダに散らしたカリカリのオニオンを口にした。

「あ、そうだ……なんで冷蔵庫に玉ねぎがあるの?あとはコンビニに売ってある、おつまみ系のものばかりなのに」

カット野菜はあったが「単体」の野菜は玉ねぎだけだった。

フレンチトーストの最後の一片を、これは甘ったるくなくて美味いな、と食べていた大地が、とたんにしかめっ面をした。

「だから、変に勘ぐるなって」

ペニンシュラキッチンのカウンターで、並んで座っている亜湖の頬を撫でる。

「大阪のおふくろから送られてきたんだ」

亜湖がぴん、ときた。

「淡路島産の玉ねぎ、でしょ?甘くて美味(おい)しいの。こっちじゃなかなか手に入らないんだよ」

「ふーん……おまえ、詳しいな」

大地はポタージュスープを飲んだ。気のせいか、市販のこれはなんだか味気ないような気がした。


「大地、もうちょっと食事に気をつけなきゃダメだよ。おかあさんも心配なんだわ」

……「大地のおかあさん」ってことは、大阪支社の専務の奥さまか。蓉子と同じ、朝比奈家の人だよね?

「だったら、亜湖がおれの健康管理してくれよ。
……なんなら、もう一緒に住むか?」

大地が亜湖を、甘く焦れた目で見る。

……毎日、美味いメシが食えて、亜湖自身も堪能できるのなら望むところだ。

「結婚せずに同棲なんて、おとうさんに殺されるわ」

亜湖はふふっ、と笑った。


「……結婚すりゃいいんだろ?」

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