常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

「……それにしても、今度の新商品、大丈夫ですかね……わたし、マニュアルを読んでびっくりしました」

これから、夏のボーナス戦線に向けて全店挙げて売り込みを掛ける、新商品の投資信託のことだ。

証券会社は株式だけを売買しているわけではない。今では銀行や郵便局にも開放された「投資信託」も以前から扱っているし、ほかには国が発行する債券の「国債」や会社が発行する債券の「社債」もラインナップの中にある。

「外国債を中心として組んだ、めちゃくちゃ高配当のファンドだけど、実は超ハイリスクだからなー」

ハイリスク、ハイリターンならまだしも、ハイリスク、ノーリターンになるかもしれないバクチ商品なのだ。大地も売るべき顧客のリストを頭に浮かべようとするが、気が重い。

「外国債の中でも、政情も経済も安定しない東欧や南米が中心なんですよ……元本、守れるでしょうか……」

彼女は企業や自治体が相手の法人営業課だから、提案する金額は並大抵のものじゃない。

「まぁ、思ったような受益がでなかったら、繰上償還するだろ」

「繰上償還」とは、運用会社(顧客に代わって投資する機関)が下手を打って、約束した配当なんて到底無理!運用に失敗しました!となった場合、償還(いわゆる満期)よりも前に強制的に解約されることである。

つまり、途中で「なかったこと」にされるのである。その時点での算定になるので、元本保証のない投信は、遠慮会釈なくマイナスになることがある。

田中 沙恵子は大きなため息を吐いた。

「……信託銀行や運用会社はお客様のニーズを理解(わか)っているんでしょうか……」

< 53 / 256 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop