常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……それにしても、今度の新商品、大丈夫ですかね……わたし、マニュアルを読んでびっくりしました」
これから、夏のボーナス戦線に向けて全店挙げて売り込みを掛ける、新商品の投資信託のことだ。
証券会社は株式だけを売買しているわけではない。今では銀行や郵便局にも開放された「投資信託」も以前から扱っているし、ほかには国が発行する債券の「国債」や会社が発行する債券の「社債」もラインナップの中にある。
「外国債を中心として組んだ、めちゃくちゃ高配当のファンドだけど、実は超ハイリスクだからなー」
ハイリスク、ハイリターンならまだしも、ハイリスク、ノーリターンになるかもしれないバクチ商品なのだ。大地も売るべき顧客のリストを頭に浮かべようとするが、気が重い。
「外国債の中でも、政情も経済も安定しない東欧や南米が中心なんですよ……元本、守れるでしょうか……」
彼女は企業や自治体が相手の法人営業課だから、提案する金額は並大抵のものじゃない。
「まぁ、思ったような受益がでなかったら、繰上償還するだろ」
「繰上償還」とは、運用会社(顧客に代わって投資する機関)が下手を打って、約束した配当なんて到底無理!運用に失敗しました!となった場合、償還(いわゆる満期)よりも前に強制的に解約されることである。
つまり、途中で「なかったこと」にされるのである。その時点での算定になるので、元本保証のない投信は、遠慮会釈なくマイナスになることがある。
田中 沙恵子は大きなため息を吐いた。
「……信託銀行や運用会社はお客様のニーズを理解っているんでしょうか……」