常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「……上條課長は本社にいらしたとき、トレーディングルームだったんですよね?」
田中 沙恵子が大定番の鰹のたたきを食しながら訊いた。鰹はもちろん藁で燻したものだ。
「ああ、そうだけど」
大地は普段、ほとんど食べずに呑み続ける方だが、ここの料理は美味しくて結構手をつけていた。もちろん、ビールもどんどん進んでいた。
「本社の大口取引の株式売買って、一日にものすごい金額が動くんですよね?」
彼女自身も会社相手の仕事だから、名だたる企業が投資している本社の大口取引に興味があるのだろう。
「そうだな」
「課長は失敗とかしませんでした?」
「そりゃあ、したさ。一日に数億円の損失を出したこともあるよ」
大地は苦笑しながら答えた。それまで、教育係についていた先輩から離れて、独り立ちした頃のことだ。
「えぇーっ、課長でもっ!?
……で、どうなったんですか?」
田中 沙恵子が目を見開いていた。
「どうもこうも、ないよ。その月の締め日までに取り戻せばいいわけだから」
実際、翌日からは利幅は薄くても確実にプラスになる銘柄に堅実に投資することで、なんとか月末に間に合った。あんなに胃に穴が開くような毎日を送ったことは未だかつてない。
結局、バランスが大事なんだな、と悟った。
プロだから、いくら確実に儲かるからといっても、堅実なばかりでは顧客はつかない。特に大企業相手のシビアな大口取引ではそうだ。
どれだけうまく堅実な銘柄と投機的な銘柄とを組み合わせるか、というのが肝なのだ。