溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜

九条さんは朱音さんが来ることを知らないのかな……?ううん、事前に聞いているのかも。

「お疲れ様! 昨日はありがとうね、青葉ちゃん!」

そんなことを考えているうちに、朱音さんが目の前に現れびくっとした。

「い、いえ。こちらこそ」
「ごめんね、いきなり会社に電話なんてして。LINEしたかったんだけど、やっぱりよくわからなくて」

朱音さんらしい言動に、思わず口の端からふふっとこぼれる。きっとスマホを扱いながら、あー!もうっ!なんて発狂しちゃったんだろう。

「あ、そうだ。これそこの駅前で買ってきたんだけど、みなさんで食べて」

にこにこと昨日と変わらない様子の朱音さんから、ケーキ屋さんぽい箱のお土産をありがとうございますと言って受け取る。

「わぁ! オフィスってこんな風になってるんだ~。私会社勤めしたことないからさ。ちょっと新鮮」

そうかと思えば、朱音さんはすでに次の行動に出ていて、ドアの端から顔を中に突っ込み、興味津々と言わんばかりに中を覗き込んでいる。

「散らかってて、すみません」
「ううん。それより、京吾いる?」
「え? あ……はい。奥で怖い顔して仕事してますよ」
「中、入ってもいい?」
「どうぞ」

そう言うとまっすぐ九条さんめがけ歩き出す朱音さん。ユリさんの言う通りやっぱり九条さんに用事があって来たんだ。

打ち合わせは終わったはずなのに、会社にまで来るなんてどんな要件なんだろう。 私用だろうか?
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